Column
2026/08/08
法務人材法務人材採用は中途市場での即戦力確保だけに頼るのではなく、未経験者へのポテンシャル採用と体系的な社内育成プログラムを組み合わせることで、深刻な採用難の時代でも安定して強い法務体制を築けることを解説します。
近年、法務人材採用の現場では、即戦力となる中途採用者の獲得競争が激化しています。企業法務経験者の母集団は限られており、大手企業や外資系企業が高い年収水準で優秀な人材を囲い込む傾向が強まっているため、中堅企業がスカウトやエージェント経由で即戦力人材を採用しようとしても、なかなか候補者に出会えないという声が増えています。
こうした状況を受けて、多くの法務部が注目しているのが「未経験者を採用し、自社で育成する」というアプローチです。ポテンシャル採用であれば、法務経験の有無にとらわれず、地頭の良さや業務適性を基準に候補者を選定できるため、母集団形成の幅が大きく広がります。特に営業部門や経理部門、総務部門などですでに社内業務を経験している人材であれば、事業理解や社内調整力という点で即戦力採用者にはない強みを持っていることも少なくありません。
また、即戦力採用にこだわり続けることには、採用単価の高騰以外にもリスクがあります。採用活動が長期化すればするほど既存の法務メンバーの業務負荷は高止まりし、離職につながりかねません。さらに、内定までこぎつけても、他社との競合に敗れて採用を逃すケースも珍しくないため、「採用できないこと」自体が法務部の事業リスクになりつつあるのが実情です。こうした環境変化を踏まえると、未経験者採用と育成を選択肢に加えることは、もはや特別な施策ではなく、法務人材戦略の標準的な一手として検討すべき段階に来ているといえます。
ポテンシャル採用を単発の穴埋め策で終わらせず、中長期の法務人員計画の中に「育成枠」としてあらかじめ組み込んでおくことも重要です。毎年一定数を未経験者採用の枠として確保し、育成にかかる期間と体制を織り込んだ人員計画を立てておくことで、急な欠員や増員ニーズが発生した際にも、慌てて中途市場に頼ることなく、社内で育成中の人材を早期に戦力化するという選択肢を持つことができます。
法務未経験者を採用する際にまず重要になるのが、どのような資質を持つ人材が法務業務に向いているかを見極める採用基準です。法律知識は入社後の育成でカバーできますが、以下のような資質は短期間では身につきにくいため、選考段階で重点的に評価する必要があります。
特に営業経験者や企画職経験者は、社内外の利害関係者と交渉してきた経験が契約交渉の場面で活きるケースが多く、法務未経験であってもポテンシャル採用の有力な候補になり得ます。
これらの資質は、経歴書だけでは判断できません。面接では、過去に担当した業務で難しい判断を迫られた場面を具体的に語ってもらい、その際にどのような情報を集め、誰に相談し、最終的にどう判断したのかを深掘りすることで、論理的思考力やリスク感度を確認することができます。あわせて、あえて曖昧な質問を投げかけ、即答せずに確認や質問を重ねようとするかどうかを見ることも、法務人材としての適性を測る有効な手がかりになります。
ポテンシャル採用を成功させる鍵は、採用後の育成プログラムをどれだけ体系的に設計できるかにあります。行き当たりばったりのOJTでは、育成に時間がかかるだけでなく、指導役の負担が過大になり、既存メンバーの本来業務にも支障が出かねません。
効果的な育成プログラムの一例として、まず定型的な契約書レビュー業務からスタートし、チェックリストとひな形を使って基本パターンを習得させ、その後、非定型案件や難易度の高い交渉案件へと段階的に業務範囲を広げていく方法が挙げられます。あわせて、社内外の研修受講や、ビジネス実務法務検定などの資格取得を支援する制度を設けることで、学習意欲の高い人材の成長を後押しできます。資格取得を人事評価や手当と連動させることで、学習を継続するインセンティブを持たせている企業も見られます。
また、育成期間中はメンター役の負担が大きくなりがちです。特定の一人にメンター役を集中させてしまうと、その担当者自身の業務が圧迫され、指導の質も次第に低下してしまいます。日常的な質問対応を担う「実務メンター」と、キャリア相談や定期的な振り返り面談を担う「キャリアメンター」を分けて配置するなど、役割を分散させる工夫が有効です。あわせて、育成の進捗を月次で共有するミーティングを設け、部長やマネージャーが個々のメンターの負担状況を把握できるようにしておくことも欠かせません。自社だけで育成体制を構築するのが難しい場合は、外部の専門人材を活用しながら育成を進めるという選択肢もあります。法務人材コネクトの詳細はこちらから、自社の状況に合った法務人材の確保・育成支援について相談することができます。
外部からのポテンシャル採用に加えて、社内異動によって法務人材を育成するというアプローチも有効です。営業部門や経理部門、事業企画部門などで培った事業知識やビジネス感覚を持つ人材を法務部に異動させることで、事業部門との距離が近く、実務に即したアドバイスができる法務パーソンを育てることができます。
社内異動による育成を機能させるためには、単に異動させるだけでなく、法務部内でのキャリアパスを明確に提示することが重要です。ジュニアスタッフとしての基礎固めの期間、契約審査を一人で担当できるようになる中堅期、特定分野の専門性を深める、あるいはマネジメント側に進むといった複数のキャリアの選択肢を示すことで、異動してきた人材の定着率とモチベーションを高めることができます。
社内異動による法務人材の育成を検討する際は、単に「手が空いている人」を異動させるのではなく、日頃から社内規程やリスクに関心を持っているか、他部門との調整役を進んで担ってきたか、といった観察に基づいて候補者を選ぶことが望ましいといえます。異動前の部門の上長を交えた面談を行い、本人のキャリア志向と法務部が求める人材像がかみ合っているかを事前にすり合わせておくことも、異動後のミスマッチを防ぐうえで重要です。
また、社内異動者を受け入れる際は、異動前の部門に籍を残したまま一定期間法務業務を兼務させる「お試し期間」を設けている企業もあります。本人にとっては適性を見極める機会になり、法務部にとっても本配属前に業務理解度を確認できるため、双方のミスマッチを最小限に抑える工夫として有効です。
未経験者の育成には一定の時間がかかるため、育成期間中に法務部の業務が滞ってしまっては本末転倒です。そこで有効なのが、育成中の人材が対応しきれない業務や高度な専門知識を要する業務を外部委託でカバーする、ハイブリッド型の法務体制です。
例えば、定型的な契約書審査や日常的な問い合わせ対応は育成中の人材にOJTを兼ねて担当させ、M&Aや訴訟対応など専門性の高い業務は外部の専門家に委託するといった役割分担を行うことで、育成のスピードを落とすことなく、法務部全体のサービスレベルを維持できます。育成中の人材にとっても、専門家が対応する高度な案件のやり取りを間近で見ることができるため、将来的に自分が担当することになる業務のイメージを早い段階でつかめるという副次的な効果も期待できます。
ハイブリッド体制を設計する際は、どの業務を育成中の人材に任せ、どの業務を外部委託するのかという切り分けの基準をあらかじめ言語化しておくことがポイントです。切り分けが曖昧なままだと、育成中の人材に難易度の高い案件が偏って割り振られてしまったり、逆に外部委託先への依存度が下がらず育成が進まなかったりする事態を招きます。委託範囲や品質基準を定期的に見直し、育成の進捗に合わせて内製化する業務を徐々に増やしていく運用が理想的です。法務アウトソーシングについてはこちらから、自社の育成フェーズに合わせた業務委託の活用方法を確認いただけます。
法務人材採用が年々難しくなる中、中途市場での即戦力採用にこだわりすぎると、採用活動が長期化し、法務部の人員不足が慢性化するリスクがあります。ポテンシャル採用と社内異動による育成、そして外部専門人材の活用を組み合わせることで、採用市場の状況に左右されにくい、持続可能な法務人材確保の仕組みを構築することができます。
自社だけで育成体制やハイブリッド法務体制の設計を進めるのが難しいと感じる場合は、外部の専門家に相談しながら、自社に合った法務人材戦略を検討することをおすすめします。育成プログラムの設計、社内異動者のキャリアパス整備、そして外部人材の活用範囲の見極めという3つの要素を並行して進めることで、採用市場の波に左右されない、自社独自の法務人材確保の仕組みを長期的に育てていくことができます。
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