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ESG法務の実務入門:人権デューデリジェンスとサプライチェーン法的リスク管理

2026/06/08

法改正対応

ESG法務の実務入門:人権デューデリジェンスとサプライチェーン法的リスク管理

ESG法務とは何か:企業法務に求められる新たな役割

近年、ESG(Environment=環境・Social=社会・Governance=ガバナンス)への対応は、大企業だけでなく中堅企業においても経営上の重要課題となっています。投資家や取引先からの要求、規制当局による法令整備が進むなかで、法務部はESG経営を支える中核的な機能として位置づけられるようになっています。

ESG法務とは、環境・社会・ガバナンスに関連する法的リスクを管理し、企業がサステナブルな事業活動を継続するための法務機能全体を指します。具体的には、気候変動対応に関する開示規制への対応、サプライチェーン全体を通じた人権デューデリジェンス(Human Rights Due Diligence、以下「HRDD」)の実施、コーポレートガバナンスの強化など、多岐にわたるテーマが含まれます。

従来の企業法務が「リスクを管理して損失を防ぐ」という守りの機能を中心としていたとすれば、ESG法務は「企業の社会的責任を果たしながら持続的な価値を創造する」という攻めの視点も合わせ持つものです。この変化は、法務部のあり方そのものを問い直す契機となっています。

人権デューデリジェンスの法的背景と義務化の動向

HRDDとは、企業が自社の事業活動やサプライチェーンを通じて人権への悪影響を引き起こしていないかを特定・評価し、対応策を講じるプロセスを指します。国連ビジネスと人権に関する指導原則(UNGPs)が2011年に採択されて以降、国際的なスタンダードとして普及し、各国で法制化の動きが加速しています。

特に注目すべきは、欧州の法規制の動向です。2023年に欧州議会が採択した「企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令(CSDDD)」は、一定規模の企業に対してサプライチェーン全体でのHRDD実施を義務付けるもので、EU域内で事業を行う日本企業にも実質的な影響が生じます。また、フランスの「注意義務法」やドイツの「サプライチェーン・デューデリジェンス法(LkSG)」など、個別の国内法も日本企業のサプライヤーとして対応が求められるケースが増えています。

日本国内においても、2022年に経済産業省が「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を策定し、2023年には東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードが改訂されて人権への取り組みが実質的に求められるようになっています。法的拘束力という観点では欧州に比べてソフトな要求水準ですが、今後の立法化に向けた地ならしが進んでいることは明らかです。

法務部が担うHRDDの実務:5つの主要ステップ

HRDDを効果的に実施するためには、単発の取り組みではなく、継続的なプロセスとして組織に組み込むことが重要です。以下に、法務部が中心となって推進すべき5つのステップを解説します。

ステップ1:人権ポリシーの策定と公表

まず、自社が人権をどのように尊重するかを示す「人権ポリシー」を策定し、ウェブサイトや有価証券報告書などで公表します。法務部は、国際スタンダードや国内外の規制要件を踏まえながら、経営層・コンプライアンス部門・CSR部門と連携してポリシーの内容を設計する役割を担います。

ステップ2:人権リスクの特定と優先順位付け

自社の事業活動やサプライチェーン全体を俯瞰し、強制労働・児童労働・差別・ハラスメントなどの人権リスクを特定します。すべてのリスクに均等に対応することは現実的ではないため、「影響の重大性」と「発生可能性」を軸にリスクを評価し、対応の優先順位を設定します。法務部は、リスクの法的性質を判断する専門家として、リスクアセスメントのプロセスを主導または支援します。

ステップ3:予防・軽減措置の実施

特定したリスクに対して、具体的な予防・軽減策を実施します。たとえば、サプライヤーとの契約に人権条項を追加すること、定期的な監査プログラムを導入すること、従業員向けの人権研修を実施することなどが挙げられます。法務部は、契約条項の設計や監査スキームの法的整備において重要な役割を果たします。

ステップ4:進捗モニタリングと有効性評価

実施した措置の効果を継続的にモニタリングし、改善が見られない場合は取り組みを見直します。KPIを設定してサプライヤーの人権遵守状況を定量的に把握するとともに、内部監査や第三者監査を組み合わせた評価体制を構築します。

ステップ5:情報開示と説明責任

HRDDの取り組みと成果を外部に開示します。日本では有価証券報告書やサステナビリティレポートでの開示が一般的ですが、欧州の規制対象企業は詳細な報告義務を負います。法務部は、開示内容の法的正確性を確保するとともに、不正確な情報開示がレピュテーションリスクや証券規制上のリスクにつながらないよう管理します。

サプライチェーン法的リスク管理の体制整備

サプライチェーンを通じた法的リスクは、直接の取引先だけでなく、二次・三次以降のサプライヤーにも及ぶ可能性があります。法務部がサプライチェーン全体の法的リスクを管理するためには、以下の体制整備が求められます。

契約管理の強化

主要サプライヤーとの基本取引契約に、人権・環境・反腐敗に関する遵守義務条項を盛り込みます。また、サプライヤーが下位の取引先にも同様の義務を課すことを求める「フローダウン条項」を設けることで、サプライチェーン全体への要求を浸透させます。違反があった場合の是正措置・契約解除権も明確に規定しておくことが重要です。

サプライヤー審査・評価の仕組み

新規取引先の選定時にはデューデリジェンスを実施し、既存サプライヤーについても定期的な自己申告・現地確認・第三者認証の取得を求める仕組みを整備します。法務部は、審査基準の策定や評価ツールの選定において専門的な知見を提供します。

内部通報・グリーバンスメカニズムの整備

自社従業員だけでなく、サプライヤーの従業員や地域住民が人権侵害を申告できる窓口(グリーバンスメカニズム)を設置します。これは国連指導原則でも求められる仕組みであり、法務部は申告受付から調査・対応・フィードバックまでのプロセスを設計します。

クロスファンクショナルな推進体制

ESG法務は、法務部単独では対応できないテーマです。調達・CSR・人事・IR・コンプライアンスなど関連部門が連携し、法務部がコーディネーターの役割を担う推進体制を構築することが不可欠です。特に、サプライヤー管理を担う調達部門との連携は法務部が意識的に強化すべき点です。

ESG法務における法的開示リスクの管理

ESGに関連した情報開示は、近年、法的リスクの観点から重要性が増しています。「グリーンウォッシュ」(実態を伴わない環境への取り組みを誇張すること)に対する規制強化が各国で進んでおり、不正確・誇大な開示は訴訟リスクや規制上のリスクを招く可能性があります。

欧州では、欧州証券市場監督機構(ESMA)がグリーンウォッシュに対する監督を強化しており、誇大なESG開示を行った企業に対する制裁事例が報告されています。日本でも、景品表示法において環境配慮表示のガイドラインが強化されており、法務部は開示内容の審査においてより積極的な関与が求められています。

具体的な対応策としては、開示資料の法務レビューフローを確立すること、ESG関連の主張に裏付けとなる根拠データを確保すること、開示前に第三者検証を受けることなどが挙げられます。また、開示後に事実関係が変化した場合の訂正・更新プロセスを事前に整備しておくことも重要です。

LeONEのサービスを活用したESG法務体制の強化

ESG法務の対応は、法律の知識だけでなく、サプライチェーン管理・CSR・投資家対応など複合的なスキルを必要とします。また、規制環境が急速に変化するなかで、最新の動向を継続的にキャッチアップしながら社内体制を整備していくことは、多くの企業にとって容易ではありません。

LeONEでは、法務アウトソーシングサービスを通じて、ESG法務に関連する契約書の審査・整備、サプライヤー管理スキームの法的設計、開示書類のリーガルレビューなど、実務上の法務業務をサポートしています。また、法務コンサルティングサービスでは、ESG法務に精通した専門家が御社の現状を診断し、体制整備の優先課題と実行計画の策定を支援します。

さらに、法務人材コネクトサービスでは、ESG・国際法務の経験を持つ法務人材を貴社のニーズに合わせてご紹介することも可能です。ESG法務への対応強化を検討されている企業様は、ぜひLeONEにご相談ください。

今後、ESG法務は企業法務の中核テーマとしてますます重要性を増していきます。早期に体制を整備することで、リスク管理の強化はもとより、投資家・取引先・消費者からの信頼獲得につながります。法務部が積極的にESG経営の推進役を担うことで、企業全体の持続的な成長に貢献できるでしょう。