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フリーランス新法の実務対応:企業法務が見直す契約と体制

2026/08/31

企業法務

フリーランス新法の実務対応:企業法務が見直す契約と体制

フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス新法)の施行から約2年が経過し、企業法務には契約書式の再点検と社内体制の見直しが求められています。本記事では施行後に見えてきた実務上の論点と、法務部が取るべき対応策を具体的に解説します。

フリーランス新法とは:企業法務が押さえるべき規制の全体像

フリーランス新法は、企業(発注事業者)と個人事業主・一人法人などの受託者との間の業務委託取引を適正化するために制定された法律です。従来の下請法が資本金要件によって適用対象を限定していたのに対し、フリーランス新法は資本金の大小にかかわらず、フリーランスに業務を委託するほぼすべての事業者を規制対象とする点が大きな特徴です。自社が「発注する側」である以上、業種や取引金額の規模を問わず何らかの形で規制の射程に入ると考えておくのが安全です。

規制の柱は大きく分けて①取引条件の書面等による明示義務、②報酬支払期日の設定・遵守義務、③禁止行為(受領拒否・報酬減額・返品・買いたたき等)の規制、④募集情報の的確表示義務、⑤ハラスメント対策・中途解除時の予告義務の5つです。企業法務としては、自社のどの取引がフリーランス新法の適用範囲に含まれるのかを正確に切り分けることが、実務対応の出発点になります。

特に注意すべきは、下請法の対象取引と重複する場合でも、フリーランス新法固有の要件(例えば60日以内の支払期日ルールの起算点や、募集情報の的確表示義務)が別途課される点です。「下請法対応は済んでいるから大丈夫」という思い込みで進めてしまうと、フリーランス新法特有の規制を見落とすリスクがあります。両法の適用関係を整理した対応表を社内向けに作成し、契約審査の担当者がいつでも参照できるようにしておくことをおすすめします。

また、規制の適用対象となる「フリーランス」の範囲についても、実務上は判断に迷う場面が少なくありません。法人形態であっても従業員を使用していない、いわゆる一人法人はフリーランス新法上のフリーランスに含まれる一方、業務委託先が複数名の従業員を雇用している法人であれば対象外となります。取引先が法人か個人事業主かという形式だけで判断せず、実質的な従業員の有無まで確認するプロセスを契約締結前のフローに組み込んでおくことが、判断誤りを防ぐポイントです。

業務委託契約書の書面明示義務:見直すべきチェックポイント

フリーランス新法では、業務委託契約を締結する際に、給付内容・報酬額・支払期日等の一定事項を書面または電磁的方法で明示することが義務付けられています。施行前から契約書のひな形を整備していた企業でも、次のような項目が漏れているケースが少なくありません。

  • 報酬の具体的な算定方法(成果物単位・時間単位の別)
  • 報酬の支払期日(給付を受領した日から60日以内という上限規制への適合)
  • 検査を行う場合の検査完了日の明示
  • 契約の中途解除・不更新の場合における事前予告のルール

特に支払期日については、下請法よりも規制がシンプルに見えて実務上は起算点の解釈で迷うケースが多く、契約書ひな形と実際の支払フローの双方を突き合わせて確認する必要があります。給付を分割して受領する契約や、検収に長期間を要する契約では、どの時点を「給付を受領した日」とするかで支払期日の計算結果が変わってくるため、業務類型ごとに整理しておくと審査の効率が上がります。

また、書面明示義務は電磁的方法(メールやチャットツールでの明示)でも満たすことが可能ですが、後から取引条件の証跡をたどれる形で保存されているかどうかがポイントです。口頭での合意やチャットの断片的なやり取りだけで発注が完結してしまう業務フローになっていないか、契約審査の観点から現場のオペレーションを確認しておく必要があります。契約書ひな形の整備自体に工数がかかる場合は、法務アウトソーシングについてはこちらから、ひな形の一括見直しを外部に依頼するという選択肢も検討に値します。

施行後2年で見えてきた実務トラブルの傾向

施行から約2年が経過し、現場では制定当初には想定しきれなかった論点が顕在化しています。代表的なものが、事業部門が法務部を経由せずにフリーランスへ直接業務を依頼し、書面明示義務を欠いたまま取引が開始されてしまうケースです。特にマーケティング部門や開発部門での小規模な業務委託は、契約書を交わさず口頭やチャットのやり取りだけで進行しがちで、後から発覚して法務部が事後対応に追われる事例が増えています。

また、既存の業務委託契約を漫然と更新し続けた結果、更新のたびに必要となる中途解除時の予告義務への対応が抜け落ちていたという相談も多く寄せられています。契約の新規締結時だけでなく、更新・継続時にもフリーランス新法の要件を満たしているかを定期的にチェックする仕組みが必要です。

さらに、ハラスメント対策義務についても、社内の相談窓口はフリーランスからの相談を想定した設計になっていないケースが目立ちます。従業員向けの相談窓口とフリーランス向けの相談窓口を明確に区別せず運用していると、相談があった際の対応フローが定まらず初動が遅れる原因になります。相談窓口の周知文言や運用マニュアルに、フリーランスとの取引を念頭に置いた記載があるかを改めて確認しておくとよいでしょう。

加えて、報酬の減額や返品といった禁止行為への該当性についても、現場では「品質基準を満たしていないから当然の対応」という認識で処理してしまい、後になって禁止行為への該当が発覚するケースが報告されています。成果物の受領後に発注者側の一方的な都合で報酬を減額したり、いったん受領した成果物を後から返品したりする行為は、正当な理由がない限り禁止行為に該当し得ます。品質面での問題がある場合こそ、感覚的な対応ではなく、契約書に定めた検査基準や手続きに沿って粛々と対応することが、結果的に法務リスクを抑えることにつながります。

発注管理体制の整備:現場への周知とモニタリングの仕組み

フリーランス新法対応で最も重要なのは、契約書式の整備だけで終わらせず、発注が発生する現場にルールを浸透させることです。具体的には次のような取り組みが有効です。

  • フリーランスへの発注が発生し得る全部門を洗い出し、発注時のフローチャートを作成する
  • 契約書テンプレートと発注申請システムを連携させ、書面明示のない発注を仕組みとして防止する
  • 年1〜2回、各部門の発注担当者向けにフリーランス新法の実務研修を実施する
  • 相談があった際の窓口とエスカレーションフローを整備し、社内ポータル等で常時周知する

研修は一度実施して終わりにするのではなく、実際に発生した問い合わせ内容やヒヤリハット事例を蓄積し、次回の研修内容に反映していくサイクルを作ることが定着への近道です。特に異動や組織変更が多い企業では、新しく発注業務を担当することになった社員が制度を知らないまま取引を進めてしまう事態を防ぐため、着任時のオンボーディング資料にフリーランス新法対応の項目を組み込んでおくことも効果的です。

発注申請システムとの連携が難しい場合は、まず簡易的な「発注前チェックリスト」を作成し、現場の担当者が発注する前に自己点検できる仕組みを導入するだけでも効果があります。チェックリストには、委託先がフリーランス新法上のフリーランスに該当するかどうかの判定基準や、必要な明示事項の一覧を含めておくと、法務部への問い合わせ件数を減らすことにもつながります。

もっとも、こうしたモニタリング体制の構築や研修の企画・実施には相応の人的リソースが必要です。法務部内の人員だけで賄いきれない場合は、法務人材コネクトの詳細はこちらから、体制整備を担える経験者の力を借りることも有効な選択肢です。

外部リソースの活用:法務部の負荷を分散する体制づくり

フリーランス新法への対応は、契約書の見直し、発注フローの再設計、社内研修の実施と、法務部にとって一時的に業務量が跳ね上がる取り組みです。限られた人員で日常のレビュー業務と並行して進めるのは容易ではなく、スポットでの外部リソース活用を検討する企業が増えています。

例えば、契約書ひな形の一括棚卸しや発注管理システムの要件整理といった期間限定のプロジェクトはアウトソーシングで対応し、継続的な発注審査や社内問い合わせ対応は自社の法務人材を増強して内製化するといった、業務の性質に応じた使い分けが現実的です。プロジェクト単位での外部委託と、恒常的な人員増強とでは適したリソースの調達方法が異なるため、対応すべき業務量とスケジュールを整理したうえで、どちらの手段が自社に合っているかを見極めることが重要です。

人材の紹介やマッチングを探している場合は、指名検索でも多く利用されているLINK LEGALの詳細はこちらもあわせてご確認ください。自社の状況に応じて、スポットの業務委託から常駐に近い形での人材確保まで、幅広い選択肢の中から最適な体制を検討できます。

まとめ:継続的な見直しで対応力を高める

フリーランス新法は施行して終わりではなく、取引実態や社内体制の変化に合わせて継続的に見直すべき規制です。契約書式の点検、発注現場への周知、そしてモニタリング体制の3点を定期的にアップデートし続けることが、企業法務に求められる本質的な対応といえます。

特に事業拡大やM&Aなどで新たな部門・グループ会社が加わったタイミングは、フリーランスとの取引実態が把握しきれていない典型的なリスクポイントです。半年に一度など定期的なタイミングを決めて、全社的な取引実態の棚卸しと契約書式の見直しをルーティン化しておくと、規制強化や運用の変化があった場合にも慌てず対応できます。自社の体制に不安がある場合は、外部の専門家の知見を取り入れながら、無理のないペースで整備を進めていくことをおすすめします。