Column
2026/09/20
企業法務カスハラ対策義務化は2026年10月1日に施行され、企業は方針の明確化や相談体制の整備など4つの措置を講じる必要があります。施行前に法務部が主導して進めるべき規程・契約・対応フローの整備手順がわかります。
2025年6月に改正労働施策総合推進法が公布され、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)を防止するための雇用管理上の措置が、事業主の義務となりました。施行は2026年10月1日です。2026年2月には厚生労働省が具体的な措置の内容を示す指針を告示しており、企業が何を整えるべきかの輪郭はすでに明らかになっています。
これまでのカスハラ対策は、厚生労働省のマニュアルなどを参考にした、企業ごとの任意の取り組みが中心でした。改正後は、パワーハラスメントやセクシュアルハラスメントと同じく、防止措置を講じることが法律上の義務となります。企業規模は問われず、労働者を雇用している事業主であれば対象になると考えられます。
カスハラ対策というと人事部や総務部、お客様対応部門の仕事という印象がありますが、実際には法務部が関与すべき論点が数多く含まれています。
特定の部門だけに任せると、規程・現場運用・契約の間にずれが生じやすくなります。法務部が横串で全体設計に関わることが、実効性のある体制づくりの近道です。
指針では、カスハラを次の3つの要素をすべて満たすものとして整理しています。
対象は一般消費者だけではありません。取引先の担当者による言動も含まれ、対面や電話に限らず、SNSなどインターネット上の言動も対象となります。BtoBの取引が中心の企業でも、「自社には関係ない」とはいえない点に注意が必要です。
この制度は、正当なクレームや要望まで排除するものではありません。判断にあたっては、要求内容の妥当性と、手段・態様の相当性の両面から検討します。
実務では、この線引きを担当者個人の感覚に任せないことが重要です。社内基準を文書化し、判断に迷ったときの相談先を明確にしておくことで、現場の萎縮と過剰対応の両方を防げます。
指針は、パワーハラスメント防止措置と同じ骨格で、事業主が講ずべき措置を4つの柱に整理しています。法務部としては、それぞれの柱について「何を文書化し、誰が担い、どう運用するか」を具体化していくことになります。
「カスハラには毅然と対応し、従業員を守る」という事業主の方針を明確にし、カスハラの内容や対処方法とあわせて労働者に周知します。就業規則、社内ポータル、研修資料など、従業員の目に触れる場所に明記することが基本です。
相談窓口を定め、担当者が相談内容に応じて適切に対応できるようにします。窓口を置くだけでは不十分で、担当者向けの対応マニュアルや、相談を受けた後のエスカレーション先をあらかじめ決めておくことが求められます。既存のハラスメント相談窓口と一本化するか、別に設けるかも設計上の論点です。
事案が発生した際には、事実関係を迅速かつ正確に確認し、被害を受けた従業員への配慮と、再発防止策を講じます。あわせて、相談したことや事実確認に協力したことを理由とする解雇その他の不利益な取扱いは禁止されている点も、社内に明示しておく必要があります。
特に悪質な事案について、警察への通報や対応の打ち切り、出入り禁止といった対処の方針をあらかじめ定め、体制を整えておきます。これは4つの措置のなかでも法的判断を伴う部分であり、法務部の関与が最も求められる領域です。
なお、措置義務に違反した場合でも直ちに罰則が科されるわけではありませんが、行政による助言や指導の対象となり得ます。加えて、対応を怠って従業員が被害を受けた場合には、安全配慮義務違反として民事上の責任を問われるおそれもあります。
4つの措置を実装するために、法務部が手を動かすべき文書は大きく3つに分かれます。
まず、既存のハラスメント防止規程にカスハラの定義と対応方針を追加するか、独立した規程を新設するかを決めます。あわせて、相談窓口の設置、相談者への不利益取扱いの禁止、事実確認の手続、被害者への配慮措置を条文として明記します。カスハラの加害者が社外の人である以上、懲戒規定ではなく、対応手順と保護措置を中心に組み立てる点が従来のハラスメント規程との違いです。
BtoB取引では、取引基本契約に、従業員の就業環境を害する言動があった場合の対応を定めておくと、実際の場面で毅然とした対応がとりやすくなります。たとえば、合理的な範囲を超える要求や威圧的な言動があった場合に、対応の打ち切りや契約の解除ができる旨を規定する方法があります。BtoCでは、利用規約に禁止行為として明記し、違反時の対応を示しておくことが有効です。
企業としての基本方針を自社サイトなどで公表することは、抑止の観点から有効です。ただし、公表文言が過度に強いと、正当なクレームまで受け付けない企業という印象を与えかねません。顧客の意見を尊重する姿勢と、従業員を守る姿勢の両方が伝わる表現に整えることが大切です。
規程や契約を整えたうえで、現場の従業員が実際に使える形に落とし込む作業も欠かせません。研修は、一般の従業員向けと、相談窓口の担当者・管理職向けで内容を分けると効果的です。一般の従業員には、カスハラの定義、一人で抱え込まずに報告すること、報告した人が不利益を受けないことを伝えます。管理職や相談担当者には、事実確認の進め方、記録の取り方、エスカレーションの基準を具体的な事例とあわせて教えます。
対応マニュアルには、よくある場面ごとの声かけ例や、対応を打ち切るときの言い回しを載せておくと、現場で迷わずに動けます。「ここから先は対応できません」と伝える基準を示しておくことは、従業員の心理的な負担を和らげることにもつながります。
規程整備や社内体制の設計を、第三者の視点も交えて進めたい場合は、法務部コンサルティングの詳細はこちらをご覧ください。
規程を整えても、実際に事案が起きたときに動けなければ意味がありません。悪質な事案に備えて、初動のフローを具体化しておきましょう。
法的対応に進む場合に備え、日時、場所、相手方、言動の内容、対応した従業員の名前を記録に残します。通話録音や防犯カメラ映像、メールやSNSの投稿なども重要な証拠になります。録音を行う場合は、あらかじめ「品質向上のため通話を録音します」といった案内を行っておくと運用しやすくなります。
要求が不当な金銭請求や脅迫にあたる場合、対応の窓口を弁護士に切り替えることで、従業員の負担を大きく減らせます。警察についても、平時から相談窓口を確認し、どのような事案でどの段階で連絡するのかの基準を決めておくと、いざというときの判断が早くなります。
被害を受けた従業員には、担当の変更や配置転換の検討、産業医やカウンセリングへのつなぎなど、心身両面のフォローが欠かせません。相談したことで不利益を受けることがないよう、管理職への周知も徹底してください。
事案対応や規程整備のリソースが社内で不足する場合は、法務アウトソーシングについてはこちらで、外部の専門人材を活用する方法も紹介しています。
施行日が目前に迫っており、すべてを完璧に整えてから始めるのは現実的ではありません。まずは施行日までに最低限のラインを確保し、残りを施行後に段階的に進める考え方が有効です。
カスハラ対応は、一度規程を作って終わりではなく、運用しながら磨き込んでいく性質の業務です。担当者の増員や専門人材の確保が課題になる場合は、法務人材コネクトの詳細はこちらもあわせてご確認ください。
カスハラ対策は、2026年10月1日から事業主の義務となります。押さえておきたいポイントは次のとおりです。
従業員を守る体制を整えることは、正当な顧客の声に誠実に向き合う土台にもなります。法務部が旗振り役となり、無理のない範囲から着実に進めていきましょう。
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