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内部通報制度を「機能させる」ために:公益通報者保護法改正後に見直すべき運用体制とグループ会社対応

内部通報制度を「機能させる」ために:公益通報者保護法改正後に見直すべき運用体制とグループ会社対応

公益通報者保護法の改正から一定の期間が経過し、多くの企業では内部通報窓口の設置や規程の整備といった一次対応がすでに完了しています。しかし、法務部の担当者の方であれば「窓口はあるが通報件数がほとんどない」「通報が来ても対応が形骸化している」といった悩みを抱えているケースも少なくないのではないでしょうか。制度が存在することと、制度が実際に機能していることの間には大きな隔たりがあります。本記事では、内部通報制度を単なる法令遵守の証明書ではなく、実際にリスクを早期に発見し企業を守るための仕組みへと育てていくために、法務部が取り組むべき運用体制の見直しポイントを整理します。

1. 制度整備から「機能する制度」へ:何が足りていないのか

内部通報制度の多くは、法改正対応という締め切りに追われる形で構築されました。そのため、規程や窓口という「箱」は用意されたものの、社員がその箱を信頼して使うための土台づくりが後回しになっている企業が少なくありません。具体的には、以下のような課題が典型的です。

  • 通報窓口の存在は周知されているが、通報後にどのような対応がなされるのか社員に伝わっていない
  • 通報者の匿名性や不利益取扱い禁止の担保が、規程上は明記されていても実務上の運用ルールに落とし込まれていない
  • 通報を受けた後の調査体制や結論に至るまでのプロセスが属人的で、担当者ごとに対応品質にばらつきがある
  • 経営層が内部通報制度を「リスク源」として捉え、積極的な活用を後押ししていない

これらの課題は、いずれも制度設計そのものよりも運用フェーズに起因するものです。法務部が改正法対応の「その先」に目を向け、運用の質を継続的に高めていく体制を作ることが、次のステップとして求められています。

2. 公益通報者保護法改正が求める対応の再確認

運用体制を見直す前提として、まず改正法が企業に求めている水準を再確認しておく必要があります。

従事者指定と守秘義務

常時使用する労働者が301人以上の事業者には、公益通報対応業務従事者を定め、通報者を特定させる情報の管理を徹底することが義務付けられています。従事者には刑事罰付きの守秘義務が課されるため、法務部としては従事者の指定範囲や教育内容が実態に即しているかを定期的に点検する必要があります。

体制整備義務の実質化

内部規程の整備、経営幹部からの独立性確保、是正措置と再発防止といった一連の体制整備義務についても、書面上の整備だけでなく、実際に機能しているかを示す記録(対応履歴、調査報告書、是正措置の実施状況など)を残しておくことが、行政からの報告徴収や指導への備えとして重要になります。

不利益取扱いの禁止と実効性

通報を理由とした解雇・降格・減給等の不利益取扱いが禁止されていますが、実務では「直接的な報復ではないが、結果的に評価や配置で不利になる」といった間接的な事例が問題になりがちです。法務部は人事部門と連携し、通報者の異動・評価プロセスに関与するチェック機能を持たせることが望まれます。

3. 実効性を高める運用体制の設計ポイント

制度を実際に機能させるためには、以下のような運用面の設計を見直すことが効果的です。

通報しやすさの心理的ハードルを下げる

  • 社内窓口に加えて社外窓口(弁護士等)を用意し、通報者が選択できるようにする
  • 通報後の標準的な対応フローと想定期間を、あらかじめ社内向けに公開しておく
  • 過去の匿名化した対応事例(内容を特定できない範囲で)を共有し、「通報しても不利にならない」という実績を可視化する

調査・是正プロセスの標準化

通報対応の品質を安定させるためには、受付から調査、是正措置の決定、フィードバックまでの各段階でチェックリストやテンプレートを整備し、誰が担当しても一定水準の対応ができる状態を作ることが重要です。特に、調査対象者へのヒアリング手法や証拠保全の手順は、労務トラブルや訴訟リスクに直結するため、法務部が主導して標準化すべき領域です。

経営層への定期報告とガバナンスへの組み込み

内部通報の状況(件数、内容の傾向、対応状況)を定期的に取締役会や監査役会に報告する仕組みを設けることで、内部通報制度を単なる法務部の一業務ではなく、全社的なガバナンス体制の一部として位置づけることができます。これにより、経営層の関与とコミットメントを引き出しやすくなります。

こうした運用体制の設計や標準化は、日々の実務に追われる法務部だけで一から作り上げるには時間もノウハウも必要です。他社事例に基づいた体制構築を効率的に進めたい場合は、法務部コンサルティングの詳細はこちらから支援内容をご確認いただけます。

4. グループ会社・子会社への内部通報制度の展開

親会社で内部通報制度を整備しても、グループ会社や子会社まで実効性のある形で展開できていないケースは多く見られます。特に以下の点が論点になります。

通報窓口の一元化と各社独自窓口の併存

グループ共通の通報窓口を設置する一方で、各子会社の労働実態や事業特性に応じた個別窓口を残す設計もあり得ます。重要なのは、通報者がどちらの窓口を使っても同水準の対応が受けられるよう、対応基準を親会社法務部が統括して管理することです。

海外子会社への対応

海外グループ会社については、現地の労働法制や公益通報関連法制との整合性を確認しつつ、日本本社の基準を最低限のベースラインとして適用する形が現実的です。言語や文化の違いにより通報のハードルが変わる点にも配慮が必要です。

子会社担当者への教育とモニタリング

子会社に内部通報の一次受付担当者を置く場合、その担当者が守秘義務や利益相反排除のルールを正しく理解しているかを定期的に確認する仕組みが必要です。グループ全体を横断してモニタリングできる体制を親会社法務部が持つことが、ガバナンス上のリスクを大きく低減させます。

5. 陥りやすい失敗例とその改善策

内部通報制度の運用でよく見られる失敗パターンと、その改善の方向性を整理します。

  • 失敗例:通報窓口の担当者が変わるたびに対応品質が変わる → 対応マニュアルとロールプレイ研修を定期的に実施し、属人化を防ぐ
  • 失敗例:通報後のフィードバックがなく、通報者が「握りつぶされた」と感じる → 調査結果の概要を一定期間内に通報者へ通知するルールを設ける
  • 失敗例:軽微な案件は放置し、重大化してから対応する → 通報内容をリスクの大小にかかわらず一律に記録し、傾向分析に活用する
  • 失敗例:制度の存在自体が社員に十分に周知されていない → 入社時研修や年次のコンプライアンス研修に内部通報制度の説明を組み込む

これらの改善には、内部通報対応の実務経験を持つ人材の確保も欠かせません。社内に専門人材が不足している場合は、法務人材コネクトの詳細はこちらから、コンプライアンス実務に強い法務人材の活用をご検討いただくことも一つの選択肢です。

6. まとめ

公益通報者保護法改正への対応は、多くの企業にとって「制度を作る」ことが一つのゴールになっていました。しかし、内部通報制度の本来の目的は、企業が自らのリスクを早期に発見し、社会的信用を守ることにあります。そのためには、通報しやすい環境づくり、調査・是正プロセスの標準化、グループ会社への展開とモニタリングといった運用面の充実が不可欠です。法務部が制度の「作り手」から「育て手」へと役割を広げていくことが、実効性のある内部通報制度への近道といえるでしょう。自社だけでの体制強化に限界を感じている場合は、外部の専門知見を取り入れることも有効な選択肢となります。