2026/06/22
コンプライアンス近年、サイバー攻撃や内部不正による情報漏洩事案が相次いで発生しており、企業の情報セキュリティ対応は経営上の最重要課題のひとつとなっています。従来、情報セキュリティはIT部門やシステム担当者の専門領域と位置付けられることが多く、法務部が積極的に関与するケースは限られていました。しかし、情報漏洩インシデントには必ずといってよいほど法的問題が付随します。
個人情報の漏洩であれば個人情報保護法に基づく対応義務が生じ、営業秘密が流出すれば不正競争防止法上の措置を検討しなければなりません。取引先やパートナー企業との機密保持契約(NDA)違反が問われる可能性もあり、場合によっては監督官庁への報告・届出も必要となります。こうした法的対応を適切かつ迅速に行うためには、法務部がインシデント発生時から中心的な役割を担う体制を整えておくことが不可欠です。
また、事後対応だけでなく、予防的な観点からも法務部の関与は重要です。情報管理規程や営業秘密管理規程の整備、取引先との機密保持条項のレビュー、従業員向けセキュリティ教育の法的整備など、平時から取り組むべき法務上のタスクは多岐にわたります。本記事では、法務部が情報セキュリティ対応においていかに実践的な役割を果たすべきかを、具体的な観点から解説します。
サイバーインシデントが発生した場合、法務部は初動から関与する必要があります。発覚直後は混乱が生じやすく、対応が後手に回ると法的リスクが拡大するため、あらかじめ法務部が関与するフローを明確にしておくことが重要です。
インシデント発生を認知した段階で、法務部はIT部門や情報セキュリティ担当者と連携して以下の情報を迅速に収集します。まず、流出した(またはその可能性がある)情報の種類と範囲を把握することが最優先です。個人情報が含まれているか、取引先の秘密情報に該当するか、営業秘密(不正競争防止法上の保護対象)に当たるかを初期段階で判断します。
次に、インシデントの原因が外部攻撃か内部不正かを確認します。内部不正が疑われる場合には、証拠保全の観点から対象者のPCやアカウントを適切な手続きで確保する必要があります。この時点で証拠を毀損・散逸させると、後の法的手続きにおいて不利な立場に置かれる恐れがありますので、法務部が証拠保全の方針を早期に示すことが重要です。
個人情報漏洩が確認された、または合理的に疑われる場合、改正個人情報保護法(2022年施行)の規定に基づき、個人情報保護委員会への報告義務が生じます。漏洩等の態様や規模によって報告の要否・期限が異なりますが、原則として速報(概ね3〜5日以内)と確報(概ね30日以内)の2段階で報告が求められます。
また、漏洩した個人情報の本人への通知義務も発生します。通知の方法・内容・タイミングについては法令の要件を満たす必要があり、漏洩情報の種類に応じた適切な表現を用いることが求められます。法務部はこれらの義務履行をリードし、コンプライアンスを確保する役割を担います。
取引先との秘密保持契約(NDA)が締結されている場合、該当する秘密情報が漏洩していれば契約上の通知義務が生じている可能性があります。各契約の条項を速やかに確認し、通知が必要かどうかを判断してください。放置すれば、後に債務不履行責任を問われるリスクがあります。
重大なサイバーインシデントでは、法務部単独での対応には限界があります。外部弁護士(サイバーセキュリティ・個人情報保護に精通した専門家)、デジタルフォレンジック業者、危機PR会社など、外部専門家を速やかに召集できる体制を平時から整えておくことが重要です。
法務部はこれらの外部専門家のコーディネーター役となり、社内の各部門(IT・広報・経営企画・営業等)との情報共有と役割分担を調整します。特に、社外への情報開示・プレスリリースの内容については法務部が必ずレビューし、事実関係の誤りや不適切な表現がないかを確認してください。
企業にとって競争上の優位性を生み出す情報(技術情報、顧客データ、ノウハウ、事業戦略等)は、不正競争防止法上の「営業秘密」として法的保護を受けることができます。ただし、同法による保護を受けるためには、①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3つの要件を満たす必要があります。
最も重要かつ実務上問題になりやすいのが「秘密管理性」の要件です。これは、当該情報が客観的に見て秘密として管理されていることを意味します。具体的には、営業秘密に該当する情報に「秘密」「機密」などのラベルを付したり、アクセス権限を制限したりといった措置が必要です。
法務部は以下の管理体制が適切に整備されているかをチェックしてください。まず、営業秘密管理規程の制定・整備です。どの情報が営業秘密に該当するか、誰がアクセス権限を持つか、外部への提供手続きはどうあるべきか、を明確に規定します。次に、従業員との秘密保持誓約書の締結です。入社時だけでなく、秘密情報にアクセスするプロジェクトへの参加時や退職時にも取得することが望ましいです。
さらに、IT環境での管理措置も重要です。重要情報が保存されているフォルダへのアクセス制限、USBメモリ等の外部記録媒体の使用制限、クラウドサービスへのアップロード制限などのルールを定め、実際にシステム上で制御されているかを確認します。管理体制が名目的にしか存在しない場合、裁判において秘密管理性が否定されるリスクがありますので、実態の伴った管理を徹底することが重要です。
営業秘密に関するトラブルで最も多いのが、退職者が競合他社へ転職する際の情報持ち出しです。法務部は以下のような対策を講じることが求められます。退職前の情報持ち出しの有無を確認する退職時チェックフロー(業務で使用していたデータの返却・消去確認、秘密保持義務の再確認等)を制度として設けることが重要です。
競業避止義務については、就業規則や個別合意の内容を精査し、合理的な範囲(業種・期間・地域)での競業制限が有効に設定されているかを確認します。過度に広範な競業制限は裁判所に無効とされる可能性があるため、適切な範囲に絞り込むことが重要です。退職者が実際に秘密情報を持ち出した疑いがある場合は、迅速にデジタルフォレンジック調査を実施して証拠を確保し、仮処分申請・損害賠償請求等の法的手段を検討します。
個人情報漏洩は企業にとって深刻なレピュテーションリスクをもたらすとともに、行政処分や損害賠償訴訟のリスクも伴います。法務部は漏洩が発生した際の対応を主導する立場として、以下のポイントを押さえておく必要があります。
まず、漏洩した(またはその可能性がある)個人情報の件数と種類を可能な限り速やかに特定します。氏名・住所・電話番号といった基本情報にとどまらず、マイナンバー、クレジットカード情報、医療情報、パスポート番号等の「要配慮個人情報」や特に機微な情報が含まれるかによって、対応の緊急度・方針が変わります。
次に、漏洩情報が第三者によって実際に取得・閲覧された可能性(既遂性)を評価します。不正アクセスによる情報取得と異なり、社内での誤送信や廃棄ミスの場合は、実際に情報が外部に流出したかどうかの確認が重要です。
個人情報漏洩においては、情報開示のタイミングと内容が企業の信頼性に直結します。法務部は広報部門と連携し、以下の観点から情報開示の方針を整理します。開示すべき事実の範囲(事実と不確実な情報の峻別)、開示のタイミング(調査中の段階での暫定開示と確認後の詳細開示)、開示の方法(プレスリリース、ウェブサイト掲載、直接通知等)を慎重に検討します。
被害者への対応窓口設置も法務部が主導すべき事項のひとつです。問い合わせ窓口の設置、FAQ(よくある質問)の整備、補償方針の検討(無料の信用情報モニタリングサービス提供等)を速やかに行い、誠実な対応姿勢を示すことが重要です。
情報セキュリティリスクへの対応は、インシデント発生後の事後対応だけでなく、平時からの予防的取組みが不可欠です。法務部が主導または積極的に関与すべき平時の取組みについて解説します。
企業の情報セキュリティ体制を支える規程類(情報セキュリティポリシー、個人情報取扱規程、営業秘密管理規程、サイバーインシデント対応規程等)を定期的に見直し、法改正や技術環境の変化に対応させることが重要です。特に、改正個人情報保護法、不正競争防止法の改正内容、各業界の監督官庁ガイドラインの動向を常にウォッチし、規程への反映を怠らないようにしてください。
また、テレワーク・BYOD(私有端末の業務利用)の普及に伴い、情報管理ルールの実効性を担保するための規程整備も重要課題です。クラウドサービスの業務利用ルール、個人情報を含む書類の取扱いルール、在宅勤務における画面覗き見防止措置等を具体的に定め、従業員への周知徹底を図ります。
取引先との契約において、情報セキュリティに関する条項が適切に設けられているかを確認することも法務部の重要な役割です。特に、自社の個人情報や機密情報を取り扱うシステム開発・運用ベンダー、業務委託先との契約には、以下の事項を盛り込むことが望ましいです。
クラウドサービス(SaaS・IaaS・PaaS)の利用に際しても、利用規約・処理委託契約(DPA)の内容を精査し、個人情報の処理に関してGDPRや個人情報保護法の要件を満たしているかを確認します。
情報セキュリティ事故の多くは、従業員の不注意や知識不足に起因します。法務部は、従業員向けの情報セキュリティ研修において法的観点からの啓発を担うことができます。具体的には、情報漏洩が発生した場合の法的リスク(刑事責任・民事責任・行政処分)のわかりやすい説明、営業秘密・個人情報の取扱いルールの解説、SNSへの不適切な投稿リスクや内部告発の適切な方法の説明などが挙げられます。
法務部がこうした研修に関与することで、従業員の法的リスク意識を高めるとともに、コンプライアンス文化の醸成にも貢献できます。LeONEが提供する法務部コンサルティングサービスでは、こうした研修プログラムの設計支援も行っており、法務部の情報セキュリティ対応力の底上げをお手伝いしています。
法務部が情報セキュリティ分野で実効的な役割を果たすためには、法的知識だけでなく、技術的な基礎知識とインシデント対応の実務経験を積み重ねることが重要です。以下に、法務部が取り組むべき具体的なアクションをまとめます。
情報セキュリティ対応は、法務部単独では完結しません。IT部門・情報システム部門、コンプライアンス部門、広報・IR部門、経営企画部門との日常的な情報共有・連携体制を構築することが不可欠です。定期的なセキュリティ情報の共有会議や合同訓練(インシデント対応シミュレーション)を実施し、いざという時に機能する体制を整えておくことが重要です。
また、サイバーインシデントを想定したBCP(事業継続計画)の見直しに法務部が参加し、法的対応の観点から抜け漏れがないかを確認することも重要です。特に、インシデント発生時の意思決定者・対応窓口・エスカレーションフローを法務的観点から整理しておくと、実際の危機発生時にスムーズな対応が可能となります。
情報セキュリティに関連する法規制は急速に変化しています。改正個人情報保護法・不正競争防止法・サイバーセキュリティ基本法のほか、EUのGDPR・AI Act、米国のCCPA等のグローバルな規制動向も法務担当者として把握しておく必要があります。定期的な勉強会への参加、専門誌の購読、外部弁護士からの情報提供等を通じて、知識のアップデートを欠かさないようにしてください。
自社の法務リソースが限られている場合には、外部の法務アウトソーシングサービスを活用することも有効な選択肢です。LeONEの法務部業務アウトソーシングでは、情報セキュリティ・個人情報保護分野に精通した専門家が、規程整備・契約書レビュー・インシデント対応支援まで幅広くサポートします。専門人材の確保が難しい中小・中堅企業の法務部においても、外部リソースを組み合わせることで高水準の情報セキュリティ対応体制を構築することが可能です。
サイバー攻撃・情報漏洩リスクが企業経営の中枢に影響を与える時代において、法務部の情報セキュリティへの関与はもはや「オプション」ではなく「必須」となっています。インシデント発生時の法的対応、営業秘密管理体制の構築、個人情報漏洩対応のリード、そして平時からの規程整備・研修支援と、法務部が担う役割は多岐にわたります。
こうした多様な課題に法務部が実効的に取り組むためには、社内の連携体制を整えるとともに、自社リソースの限界を認識し外部専門家・アウトソーシングサービスを賢く活用することが重要です。LeONEは法務部の情報セキュリティ対応力強化をサポートする各種サービスを提供しています。法務部のリソース不足や専門知識の課題でお悩みであれば、ぜひLeONEにご相談ください。
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