2026/07/13
法務部構築法務部を持たない企業が新たに法務機能を立ち上げようとするとき、多くの担当者はまず「どんな業務フローにするか」「どんな人材を採用するか」といった実務設計から考え始めます。しかし実際には、それ以前の段階、つまり経営層や現場部門から「法務部門は本当に必要だ」という合意を取り付ける段階でつまずくケースが少なくありません。
法務部門は営業部門や開発部門のように直接的な売上を生まないため、経営層からは「コストセンター」として見られがちです。契約書レビューや社内相談対応は、担当者が不在でも現場の誰かが「なんとなく」対応してしまうため、その必要性が可視化されにくいという構造的な問題もあります。
本記事では、法務部門をゼロから立ち上げる際に避けて通れない「社内合意形成」と「経営層への提案」に焦点を当て、実務担当者が押さえておくべきステップを解説します。
経営層が法務部新設に慎重になる背景には、主に次のような懸念があります。
これらの懸念に対して抽象的に「リスク管理のために法務部が必要です」と訴えても、経営層の意思決定を動かすことは困難です。重要なのは、懸念一つひとつに対して具体的な事実とデータで応答する提案書を用意することです。
経営層への提案では、感覚的な訴えではなく、定量的な根拠を示すことが不可欠です。以下の要素を提案書に盛り込むことをおすすめします。
顧問弁護士への相談件数と費用、現場担当者が契約書対応に費やしている時間(人件費換算)、過去に発生したトラブルの対応コストなどを洗い出し、「見えていなかったコスト」を数値として提示します。これだけで、法務機能が実は既に相応のコストを消費していることが経営層に伝わります。
契約書のチェック体制が不十分なまま事業を拡大した場合に想定されるリスク(不利な契約条件の見落とし、コンプライアンス違反、取引先とのトラブルなど)を、業界の実例や自社の過去事例をもとに具体的に示します。「もし起きたら」ではなく「実際に近い将来起こり得る」というリアリティを持たせることが重要です。
法務担当者を1名採用した場合、あるいは法務アウトソーシングを活用した場合にかかる費用と、それによって削減できるコスト・回避できるリスクを比較試算します。専任採用とアウトソーシングを併記し、複数の選択肢を提示することで、経営層に「まず何から始めるか」を選んでもらいやすくなります。
法務部新設は経営層の承認だけでなく、営業部門や開発部門など現場の理解も欠かせません。現場から「余計なチェックが増えて仕事が遅くなる」という反発を受けると、せっかく新設した法務部門が形骸化してしまうこともあります。
現場を味方につけるためには、次のようなアプローチが有効です。
特に立ち上げ初期は、現場が最も困っている業務(反復的な契約書チェックや取引先からの問い合わせ対応など)から着手し、小さな成功体験を積み重ねることが、社内での信頼獲得につながります。
加えて、現場のキーパーソン(各事業部門で契約や取引に深く関わっているマネージャーなど)を新設プロジェクトの初期段階から「相談役」として巻き込んでおくことも効果的です。実際の業務フローを最も理解している現場の声を反映した設計にすることで、稼働開始後の定着スピードが大きく変わります。逆に、現場への説明を後回しにしたまま体制だけを整えてしまうと、「いつの間にか承認フローが増えていた」という不満につながり、せっかくの新機能が敬遠されてしまう原因にもなります。
法務部新設の提案が経営会議で見送られてしまう企業には、いくつか共通するパターンが見られます。あらかじめ知っておくことで、同じ失敗を避けやすくなります。
1つ目は、一度の提案で全部門・全業務を対象にしようとするパターンです。立ち上げ初期から全社の契約審査・コンプライアンス・紛争対応・知財管理まですべてを担う壮大な組織像を提示すると、必要な予算や人員が過大に見積もられ、経営層は判断を先送りしがちです。まずは契約書レビューなど最も逼迫している業務領域に対象を絞り、「小さく始めて実績で拡大する」提案の方が承認は得やすくなります。
2つ目は、リスクの話ばかりで事業への貢献を語らないパターンです。「リスクを回避するために必要です」という守りの説明だけでは、成長を優先する経営層の共感を得にくい場合があります。契約交渉のスピードアップによって商談機会を逃さない、取引条件の適正化によって収益性を改善するなど、法務機能が事業成長を後押しする側面もあわせて訴求することが重要です。
3つ目は、提案後のフォローアップを怠るパターンです。一度の会議で結論が出ないことは珍しくありません。経営会議で懸念点を指摘されたら、それに対する追加データや代替案を用意し、次の会議で再提案する粘り強さも必要です。多くの成功事例では、初回提案から実際の予算承認まで数か月かけて段階的に合意を積み上げています。
合意形成と並行して検討すべきなのが、実際にどのような体制で法務機能を立ち上げるかです。主な選択肢は次の3つです。
特に法務部新設の初期段階では、いきなり専任人材を複数名採用するのはハードルが高く、予算承認も得にくいものです。まずは外部リソースを活用しながら小さく立ち上げ、業務量や成果が可視化されてきた段階で専任採用に踏み切るという進め方は、経営層への説明もしやすく、着実な合意形成につながります。立ち上げ期の体制づくりでお悩みの際は、法務アウトソーシングについてはこちらから、貴社の状況に合わせた活用方法をご相談いただけます。
経営層の承認を得て法務部門(または法務機能)がスタートした後は、最初の90日間で目に見える成果を示すことが、その後の予算継続や体制拡充の可否を左右します。
具体的には、以下のような取り組みを優先的に進めることをおすすめします。
こうした成果の可視化を継続することで、「法務部はコストセンターではなく、事業を守り前に進める機能である」という認識を社内に定着させることができます。自社だけで体制設計や成果指標の設計に不安がある場合は、組織設計の段階から専門家の知見を取り入れることも有効な選択肢です。法務部コンサルティングの詳細はこちらから、貴社に合った立ち上げ支援について確認いただけます。
ここまで解説してきた提案書の作成やヒアリング、体制設計は、いずれも相応の工数と専門知識を要します。特に人事や経営企画の担当者が片手間で法務部新設プロジェクトを推進しているケースでは、提案書の説得力を高めるための市場データや他社事例の収集に十分な時間を割けないという課題に直面しがちです。
また、仮に経営層の合意を得られたとしても、その後の採用活動自体が難航するケースも多く見られます。法務人材は市場全体で需要が供給を上回る売り手市場が続いており、求人を出しても応募が集まらない、あるいは書類選考は通過しても内定辞退が相次ぐといった声も少なくありません。
このような立ち上げ期特有の課題に対しては、社内リソースだけで抱え込まず、外部の専門家の知見や人材ネットワークを活用することで、合意形成から実行フェーズまでのスピードを大きく高めることができます。
法務部を新設するプロジェクトは、業務フローや採用計画といった「中身」を詰める前に、経営層と現場双方から「必要だ」という合意を取り付けることが最初の関門となります。定量的なコスト・リスクの可視化と、現場を巻き込む地道なコミュニケーションの両輪が、法務部新設を成功に導く鍵です。
そして合意形成後の立ち上げフェーズでは、専任採用にこだわらず、外部リソースも柔軟に組み合わせながら小さく確実に成果を積み重ねていくことが、法務機能を社内に根づかせる近道になります。提案書の作成段階から実行フェーズの体制構築まで、専門家の伴走を受けながら進めたいという場合は、法務部の新設・立ち上げをご検討の際は、ぜひ一度ご相談ください。
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