2026/06/27
法務部マネジメント近年、日本企業を取り巻くコーポレートガバナンスの要求水準は急速に高まっています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードの改訂、ESG投資の拡大、そして国内外の規制強化の波を受け、取締役会や経営陣は以前にも増して法的リスクと向き合わなければならない状況に置かれています。
こうした環境変化の中で、法務部の役割は大きく変わりつつあります。かつては「問題が起きてから相談する部署」「契約書をチェックする部署」というイメージが強かった法務部門ですが、今日では経営判断そのものに関与し、リスクを先読みしながら企業の持続的成長を支える「戦略的パートナー」としての機能が強く求められています。
しかし現実には、法務部と経営層の間には依然として大きなコミュニケーションギャップが存在していることも事実です。本稿では、取締役会・経営層と法務部が真の意味で連携するために必要な考え方と実践的な手法について詳しく解説します。
コーポレートガバナンスとは、企業が株主や従業員、取引先、地域社会などのステークホルダーに対して適切に説明責任を果たしながら、中長期的な企業価値を高めていくための仕組みや体制のことを指します。
この観点から見たとき、法務部が担うべき役割は大きく3つに整理できます。
これらの機能を適切に発揮するためには、法務部が取締役会・経営層と密接なコミュニケーションを保つことが不可欠です。
多くの企業において、法務部と経営層の連携が十分に機能していない背景には、いくつかの構造的な問題が存在します。
法務部のスタッフは、法律の専門家として正確な表現を使う習慣があります。しかし、その専門用語や長文の法的分析は、忙しい経営者にとって理解しにくいものとなりがちです。「リスクがある」という報告が「何がどの程度危険なのか」まで伝わらず、経営判断に活かされないというケースは珍しくありません。
「問題が起きてから法務に相談する」という慣習が根付いている企業では、法務部が経営の意思決定プロセスの上流に関与できません。案件が固まった後に「法務チェック」を依頼されても、リスクを指摘できる余地は限られます。
法務部側にも課題があります。経営層との対話を積極的に求めず、依頼が来た業務をこなすだけという受け身の姿勢では、戦略的パートナーとしての存在感を示すことはできません。経営課題を自ら把握し、先回りして法的観点から提案できる積極性が必要です。
組織的な問題として、法務部長がそもそも取締役会にアクセスできない構造になっている企業も多くあります。法務部長が経営執行チームや取締役会の議論に定期的に参加できない状態では、戦略的な連携は難しいと言わざるを得ません。
取締役会と法務部の連携を強化するために、具体的にどのような取り組みが有効でしょうか。
法務部が取締役会向けに月次・四半期ごとの法務レポートを作成し、定期的に情報提供する仕組みを設けることが効果的です。レポートの内容には、進行中の訴訟・紛争案件の状況、新たな規制・法改正の動向と自社への影響、法的リスクの高い重要案件の進捗、コンプライアンス研修の実施状況などを含めます。
重要なのは、専門用語を避け、経営者が直感的に理解できる言葉でリスクを「見える化」することです。たとえば「法的リスクがある」ではなく「この件は敗訴した場合に約○○億円の損害が生じ得る」という具体的な表現を心がけることで、経営判断への貢献度が大きく上がります。
経営会議(取締役会・執行役員会・各種委員会など)に法務部長が定常的に参加できる体制を整えることが重要です。会議に参加することで、法務部は経営上の課題をリアルタイムで把握し、法的観点からのインプットを適時に行えるようになります。
また、法務部長自身が経営陣の一員として発言できる環境は、法務部全体のプレゼンスを高めることにもつながります。
欧米の先進企業では、CLO(Chief Legal Officer)という役職を設け、法務の最高責任者が経営チームの一員として機能するのが一般的です。日本企業においても、法務担当役員を設けるか、あるいは法務部長に執行役員の権限を付与するなど、法務が経営レベルで意思決定に関与できる組織体制を整備することが望まれます。
法務部門の強化や組織設計については、LeONEの法務部コンサルティングサービスでも詳しくご支援しています。自社の状況を踏まえた最適な連携体制の設計についてぜひご相談ください。
取締役会・経営層との連携を機能させるためには、コミュニケーションの「質」を高めることが重要です。
経営者は「法的リスク」そのものよりも、「事業継続」「財務影響」「評判・信用」に関心があります。法務部は法律的な評価にとどまらず、そのリスクが事業に与える財務的・評判的影響を試算し、経営者の判断軸に合わせた形で情報を提供する必要があります。
たとえば、ある取引において契約条件に問題があると判断した場合、「このリスク条項は法的に問題があります」という報告ではなく、「この条項が発動すると、過去の類似事例から推計して○○万円〜○○億円の損害リスクがあります。修正交渉を行う場合は○○という代替案が有効です」というように、リスクの定量化と解決策の提示をセットで行うことが理想的です。
法務部が「リスクを指摘するだけでビジネスに協力的でない」というイメージを持たれているケースがあります。このような誤解を解くためには、法務部がリスクを指摘するだけでなく、リスクを軽減しながらビジネスを前進させるための代替案・解決策を積極的に提示する姿勢を示すことが重要です。
「ダメです」ではなく「こういう条件であれば進められます」というスタンスで経営層に向き合うことで、法務部は事業推進のパートナーとして認識されるようになります。
重要な法的課題については、取締役会での報告の前に、関係する経営陣へ個別に事前説明(ブリーフィング)を行うことが有効です。予備知識を持った状態で取締役会に臨むことで、議論の質が高まり、より良い意思決定につながります。
法務部が真に経営の戦略的パートナーとなるためには、個人の努力だけでなく、組織としての体制整備が不可欠です。
法務スタッフを各事業部門に「法務ビジネスパートナー」として配置し、日常的に事業部門の活動に関与する体制を整備することで、法務部は経営判断の上流から関与できるようになります。事業部門の担当者と日常的にコミュニケーションを取ることで、問題が大きくなる前に早期発見・対応することも可能となります。
取締役会事務局機能、株主総会対応、コーポレートガバナンス・コードへの対応などを専担するチームを法務部内に設けることで、ガバナンス対応の品質が向上します。このチームが取締役会と法務部のインターフェースとなることで、情報共有と意思疎通が円滑に行われます。
経営層との連携強化に向けた取り組みを進める一方で、法務部のリソースが不足している場合は、外部の専門家を戦略的に活用することも重要な選択肢です。定型的な契約書レビューや調査業務をアウトソーシングすることで、社内の法務スタッフが高付加価値な経営支援業務に集中できる体制を作れます。
法務業務のアウトソーシングをご検討の方は、LeONEの法務アウトソーシングサービスもぜひご活用ください。専門家チームが貴社の法務部門を強力にサポートします。
取締役会・経営層と法務部の連携強化は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、組織的・文化的な変革に取り組むことで、法務部は確実に「経営の右腕」としての存在感を高めていくことができます。
具体的なアクションとして、まず以下の3つから着手することをおすすめします。
コーポレートガバナンスへの要求が高まり続ける現代において、法務部が経営の意思決定に深く関与できるかどうかは、企業の持続的成長を左右する重要な課題です。法務部のあり方を戦略的に見直し、経営層との連携を強化することで、貴社の企業価値向上に大きく貢献できるはずです。
法務部の組織体制や経営連携の強化についてお悩みの方は、ぜひ法務部コンサルティングの詳細はこちらからLeONEにご相談ください。経験豊富な法務コンサルタントが、貴社の状況に合わせた最適なアプローチをご提案します。
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