Column
2026/10/14
法務部マネジメント法務部の目標設定は、契約審査件数などのKPIを並べるだけでは経営への貢献が伝わりません。本記事では、経営戦略から逆算する年度計画の立て方と、OKRを使った法務部の目標設定例、四半期レビューの回し方までを実務目線で整理します。
多くの企業で、法務部は「目標を立てにくい部門」と言われてきました。営業部門のように売上という明確な数字があるわけではなく、法務部の仕事の多くは他部門からの依頼に応じて発生します。そのため、年度目標が「契約審査を滞りなく処理する」「法改正に適切に対応する」といった、達成したかどうかを判断しにくい表現にとどまりがちです。
こうした課題に対し、契約審査件数や平均処理日数などのKPIを導入する法務部も増えています。KPIは業務の健全性を測る指標として有効ですが、それだけでは次のような問題が残ります。
法務部の目標設定では、日常業務の健全性を測る「KPI」と、法務部を変えていくための「方向性のある目標」を分けて考えることが出発点になります。後者を設計する枠組みとして有効なのが、次章で取り上げるOKRです。
OKR(Objectives and Key Results)は、定性的な目標(Objective)と、その達成度を測る2〜4個程度の主要な成果(Key Results)を組み合わせる目標管理の手法です。Objectiveでは「何を実現したいのか」を言葉で示し、Key Resultsでは「それが実現したと言える状態」を測定可能な形で定義します。
KPIとOKRは対立するものではなく、役割が異なります。法務部の実務では、次のように使い分けると整理しやすくなります。
法務部の価値は、事業部門がより安全に、より速く意思決定できるようになることにあります。こうした「状態の変化」は、件数だけでは捉えきれません。OKRはObjectiveを言葉で表すため、法務部の役割を経営や事業部門と共有しやすい点が強みです。また、達成率がある程度低くても許容される挑戦的な目標設定を前提としているため、業務改革やDXのような中長期の取り組みとも相性がよいと言えます。
なお、OKRを導入する際に大切なのは、法務部だけで完結させないことです。後述するとおり、経営戦略や事業部門の目標と連動させてこそ、法務部の目標は意味を持ちます。
法務部の年度計画は、前年の延長で作るのではなく、会社の経営戦略から逆算して組み立てるのが基本です。ここでは実務で使いやすい5つのステップを紹介します。
まず、中期経営計画や今期の事業計画を確認し、会社が何に注力しようとしているのかを把握します。新規事業の立ち上げ、海外展開、M&A、上場準備、業務提携の拡大など、法務の関与が必要になるテーマを洗い出します。可能であれば、経営企画部門や主要事業部の責任者に直接ヒアリングを行うと、計画書に書かれていない優先順位も見えてきます。
次に、経営テーマごとに想定される法務リスクと、法務部に求められる支援を整理します。あわせて、前年度の相談内容や契約審査の傾向を振り返り、繰り返し発生している課題や、対応が後手に回った領域を確認します。
洗い出したテーマをすべて目標にすると、計画が総花的になり、どれも中途半端に終わります。経営へのインパクトと法務部のリソースを踏まえ、今期の重点テーマを2〜3個に絞り込みます。絞り込みの段階で「今期はやらないこと」を明確にしておくと、期中の判断がぶれにくくなります。
重点テーマごとにObjectiveを1つ設定し、それぞれに測定可能なKey Resultsを2〜4個付けます。Key Resultsは「研修を実施する」のような活動ではなく、「事業部からの事前相談の割合が上がる」のような成果で表現することが重要です。
最後に、目標の達成に必要な人員、予算、外部リソースを確認します。日常業務だけで手一杯の状態では、どれほど良いOKRを立てても実行されません。定型的な契約審査を外部に委ねて重点テーマに時間を振り向けるなど、体制面の手当てまで含めて計画を完成させます。
経営戦略と法務部の計画をどう結びつけるか、自社だけでは整理が難しい場合は、法務部コンサルティングの詳細はこちらもご参照ください。
ここでは、法務部でよく設定されるテーマごとにOKRの例を紹介します。数値はあくまで例示であり、自社の現状値を把握したうえで水準を決めてください。
Objective:事業部が案件の初期段階から法務を活用している状態をつくる
Objective:定型契約は事業部が自走でき、法務は高リスク案件に集中できる状態をつくる
Objective:従業員が迷ったときに正しく相談できる組織をつくる
Objective:特定の担当者に依存せず、チームとして品質を担保できる法務部にする
OKRを設定する際は、Key Resultsの測定方法とデータの取り方を最初に決めておくことが欠かせません。事前相談の割合を測るのであれば、受付時に「ドラフト前か後か」を記録する項目を設けるなど、日常業務の仕組みに組み込んでおく必要があります。
組織力の強化に向けて専門人材を補いたい場合は、法務人材コネクトの詳細はこちらから、自社に合う人材の活用方法をご確認いただけます。
OKRは、設定して終わりでは機能しません。年度計画を形骸化させないためには、運用の仕組みをあらかじめ決めておくことが重要です。
OKRは四半期ごとに進捗を確認し、必要に応じて見直すのが一般的です。法務部の場合、期中に大型案件や法改正対応が発生し、計画どおりに進まないことも珍しくありません。レビューでは達成率だけでなく、「なぜ進まなかったのか」「目標自体を修正すべきか」を話し合い、次の四半期の優先順位を決め直します。
四半期レビューだけでは、問題に気づくのが遅れます。週次のチームミーティングで各Key Resultsの状況を短時間共有するだけでも、目標が日常業務に埋もれるのを防げます。
OKRの達成率をそのまま人事評価に連動させると、メンバーは達成しやすい目標ばかりを設定するようになり、挑戦的な目標設定というOKRの利点が失われます。評価では、目標への取り組みのプロセスや、KPIで測る日常業務の品質、専門性の向上などを総合的に見る設計が望まれます。
OKRの進捗は、経営層への定期報告の材料としても活用できます。「契約審査を何件処理したか」に加えて、「事業部の事前相談が増え、手戻りが減った」といった変化を示すことで、法務部が経営に貢献していることを具体的に伝えられます。
なお、日常業務に追われて目標に取り組む時間が確保できないことは、法務部で最もよく見られる失敗要因です。定型業務の一部を外部に委ねる選択肢については、法務アウトソーシングについてはこちらで詳しくご紹介しています。
法務部の目標設定は、日常業務の健全性を測るKPIと、法務部を変えていくためのOKRを組み合わせることで、ぐっと実効性が高まります。本記事のポイントは次のとおりです。
目標設定は、法務部が「依頼を待つ部門」から「経営とともに動く部門」へと変わるための土台です。まずは来期の経営計画を読み解き、法務部が貢献できるテーマを1つ選ぶところから始めてみてください。
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