Column
2026/10/13
法務部構築法務体制の構築は、いきなり「法務部」をつくるのではなく、兼任担当からひとり法務、法務チームへと段階的に進めるのが現実的です。本記事では各段階の課題と、内製と外部リソースの使い分け、次の段階へ進む判断基準を具体的に示します。
「法務部をつくりたい」という相談を受けると、多くの場合、その背景には「契約書の確認が追いつかない」「トラブル対応が場当たり的になっている」「上場準備で体制整備を求められた」といった具体的な困りごとがあります。しかし、こうした課題に対して最初から組織としての法務部を立ち上げようとすると、採用が難航したり、人員を確保しても業務設計が追いつかずに機能しなかったりする例が少なくありません。
法務機能は、事業規模や取引の複雑さ、規制の強さに応じて必要な水準が変わります。創業間もない時期に必要な法務と、数百名規模で複数の事業を持つ企業に必要な法務とでは、求められる専門性も業務量もまったく異なります。そのため、法務体制は「今の事業に必要な水準」と「次の1〜2年で必要になる水準」を見据えながら、段階的に整えていくのが合理的です。
段階的に考えるうえで大切なのは、「部」という組織の器より先に、法務の機能を設計することです。法務の機能は大きく、契約審査、法務相談、紛争・トラブル対応、コンプライアンス推進、機関法務(株主総会・取締役会)、規程管理、知的財産管理などに分けられます。これらを誰が、どの水準で担うのかを決めることが体制づくりの本質であり、担い手が社内の専任者か、兼任者か、外部の専門家かは手段の違いにすぎません。
この考え方に立つと、法務部がない段階でも、必要な法務機能を外部リソースと組み合わせて確保することは十分に可能です。逆に、法務部があっても機能設計が曖昧なままでは、担当者が目の前の依頼処理に追われ、経営や事業に資する法務にはなりにくいといえます。
創業期や小規模な企業では、管理部門の担当者や経営者自身が法務を兼任しているのが一般的です。この段階の課題は、法務の判断が担当者の経験や勘に依存しやすく、リスクの見落としが起きやすい点にあります。
この段階では、すべてを社内で抱え込もうとしないことが重要です。兼任担当者が限られた時間で対応できる範囲は限られているため、定型的な契約確認は自社のひな形とチェックリストで処理し、非定型の案件や重要な取引は外部の専門家に任せるという役割分担を明確にしておくと、リスクを抑えながら事業のスピードを維持できます。
外部に依頼する場合でも、案件の背景や取引の目的を整理して伝えるのは社内の役割です。依頼内容が曖昧なままでは、外部の専門家も一般論の回答しか返せません。「この取引で何を実現したいのか」「どのリスクを特に避けたいのか」を言語化する習慣が、のちに法務体制を拡充する際の土台にもなります。
取引件数が増え、兼任では対応しきれなくなった段階で、多くの企業は法務の専任者を1名配置します。いわゆる「ひとり法務」の段階です。専任者がいることで対応の質とスピードは大きく向上しますが、同時に新たな課題も生まれます。
この段階で有効なのが、外部リソースを「補完的な戦力」として計画的に組み込むことです。たとえば、契約審査の一次確認や定型的な書面作成を外部に任せることで、専任者は社内調整や重要案件の判断に集中できます。また、業務量の波に合わせて外部の支援量を調整できるため、繁忙期に合わせて人員を抱える必要もありません。
ひとり法務の段階では、次のような基準で業務を振り分けると整理しやすくなります。
なお、外部に委託できる業務の範囲は弁護士法との関係で整理が必要です。法律事件に関する法律事務を弁護士以外が報酬を得て扱うことは制限されているため、委託内容の設計には注意が求められます。ひとり法務の負担軽減を検討されている場合は、法務アウトソーシングについてはこちらもあわせてご覧ください。
事業の拡大や上場準備、規制対応の強化などにより、法務担当者が2〜3名以上になると「法務チーム」としての運営が始まります。この段階では、個人の能力に依存した運営から、仕組みで回る運営への転換が求められます。
チーム化の段階で見落とされがちなのが、法務の関与のタイミングです。契約書の最終確認だけを依頼される状態が続くと、取引条件がほぼ固まった後に問題が見つかり、事業部門との摩擦が生まれやすくなります。案件の初期段階から法務が関与できる審議・決裁フローを整えておくことで、法務は「最後の関門」から「事業の伴走者」へと役割を変えていけます。
チームが形成されると、外部リソースの使い方も「人手の補完」から「専門性の補完」や「仕組みづくりの支援」へと広がります。業務フローの設計、規程体系の見直し、ナレッジ管理の仕組みづくりなどは、日常業務を抱える社内メンバーだけでは着手しにくいテーマです。体制設計そのものを外部の視点で点検したい場合は、法務部コンサルティングの詳細はこちらも参考になるでしょう。
法務チームを独立した「法務部」として組織化するかどうかは、規模だけで決めるものではありません。法務部を設けるということは、部門長を置き、予算や人事評価、経営への報告ラインを持つということです。その負担に見合う効果が得られるかを、次のような観点で判断することをおすすめします。
これらのサインが複数当てはまる場合は、法務部としての組織化を検討する時期といえます。一方で、件数は多いものの定型業務が中心である場合は、組織を大きくするよりも外部リソースの活用や業務の効率化で対応したほうが合理的なこともあります。
段階ごとの外部リソースの位置づけを整理すると、次のようになります。
また、体制を拡充する局面では人材の確保も大きな課題になります。正社員採用だけでなく、副業や業務委託で経験豊富な法務人材に参画してもらう方法もあります。採用に時間がかかる間のつなぎとして、あるいは特定分野の専門家として外部人材を活用したい場合は、法務人材コネクトの詳細はこちらもご確認ください。
法務体制の構築は、「法務部をつくること」そのものが目的ではありません。事業の成長段階に応じて必要な法務機能を見極め、それを社内の人材と外部リソースの組み合わせで確実に担える状態をつくることが本来の目的です。
段階を飛ばして組織だけを先につくると、人材や仕組みが追いつかずに形骸化するおそれがあります。反対に、必要な段階に来ているのに体制整備を先送りすると、事業のスピードや信頼性を損なうリスクがあります。自社が今どの段階にあり、次に何を整えるべきかを定期的に点検することが、無理のない法務体制づくりにつながります。
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