2026/05/28
契約書管理コロナ禍以降、テレワークの普及とともに紙の契約書への押印プロセスが大きな業務ボトルネックとして顕在化しました。その後、デジタル庁の設立や行政手続きのデジタル化が加速する中で、民間企業においても電子契約の導入は「いつかやること」から「今すぐ取り組むべきこと」へと変化しています。
法務部にとって電子契約の導入は、単なるペーパーレス化にとどまりません。契約締結スピードの向上、保管コストの削減、契約書の検索性改善、そして改ざんリスクへの対応という複合的な課題を一度に解決できる取り組みです。一方で、「電子契約は法的に有効なのか」「どのサービスを選べばよいか」「社内展開をどう進めるか」という疑問を抱える法務担当者も多いのが実態です。
本記事では、電子契約・電子署名の法的根拠から実務導入のステップまで、法務部が押さえるべきポイントを体系的に解説します。
電子契約の法的根拠となるのは、2001年に施行された「電子署名及び認証業務に関する法律(電子署名法)」です。同法では、電磁的記録に対して行われた電子署名が一定の要件を満たす場合、手書きの署名や押印と同等の法的効力を持つとされています。
電子署名法が定める主な要件は以下のとおりです。
これらを技術的に担保するのが「公開鍵暗号方式」に基づくデジタル署名であり、認定認証機関が発行する電子証明書を利用することで、高いレベルの法的有効性を確保できます。
電子契約サービスには大きく分けて「当事者型」と「立会人型」の2種類があります。当事者型は各署名者が自分の電子証明書を保有して署名するもので、法的効力が非常に強固です。一方、立会人型はサービス提供事業者が関与して電子署名を付与するもので、2020年の総務省・法務省・経済産業省の連名見解により、適切な本人確認手続きを経た場合は法的有効性が認められると整理されています。
多くの企業では、利便性の高い立会人型を主力として採用しつつ、法的リスクが特に高い契約には当事者型を併用するという二段構えの運用を取っています。自社の契約類型のリスク分類に応じて、どの方式をどの場面で使うかを事前に整理しておくことが重要です。
国内で広く利用されている電子契約サービスとしては、クラウドサイン、DocuSign、GMOサイン、Adobe Acrobat Signなどが挙げられます。それぞれに特徴があり、自社の業務規模や契約の種類に応じた選定が重要です。
選定時に確認すべき主なポイントは以下のとおりです。
特に注意が必要なのは、取引先(相手方)の対応状況です。相手方が電子契約に対応していない、あるいは特定のサービスしか利用できない場合には、複数サービスの並行利用や、相手方との事前調整が必要になります。大手企業との取引が多い場合はDocuSignやクラウドサインが普及しているケースが多く、スタートアップや中小企業との取引が中心の場合はよりシンプルで操作しやすいサービスが適している場合があります。
また、海外取引先との契約が多い企業では、各国の電子署名に関する法規制(EU圏のeIDAS規則など)への対応状況も確認が必要です。グローバルな法務実務においては、国際的に認知度の高いサービスを選定することが安心につながります。
電子契約サービスを選定した後、最も重要なのが社内展開のプロセスです。技術導入そのものよりも、社内の意識改革と運用ルールの整備が成否を分けると言っても過言ではありません。
すべての契約を一度に電子化しようとすると、例外処理の多さから頓挫するケースが少なくありません。まずは「秘密保持契約(NDA)」「業務委託契約」「売買基本契約」など、件数が多く締結プロセスが定型化しやすいものから対象とし、段階的に範囲を広げていくアプローチが現実的です。
電子契約が法的に適さない、あるいは現時点では困難とされる契約類型もあります。代表的なものとして、以下が挙げられます。
これらの例外類型をあらかじめリストアップし、現場部門と共有しておくことで、「この契約は電子でよいのか」という都度の問い合わせを減らすことができます。
電子契約の運用には、既存の「文書管理規程」や「契約書管理規程」の改定が必要になるケースが多くあります。具体的には以下の点を規程に反映させる必要があります。
特に印紙税については、「紙の契約書には印紙が必要なのに電子契約はなぜ不要か」という疑問が現場から出ることがあります。印紙税法は課税文書を「紙」の文書と定義しているため、電子データには課税されないという整理を、根拠とともに明示しておくことが混乱防止につながります。
法務部が規程や運用ルールを整備しても、実際に契約業務を行う営業部門や購買部門が使い方を理解していなければ、電子契約の導入効果は半減します。集合研修や動画マニュアルの作成、社内ポータルへのQ&A掲載など、継続的な情報発信を行うことが重要です。
また、「電子契約は難しそう」という心理的ハードルを下げるために、実際の操作画面を使ったデモンストレーションを実施することが効果的です。法務部が率先して使い方を説明し、現場からの質問に素早く対応する体制を整えることが、社内浸透を加速させる鍵となります。
電子契約サービスが社内で稼働し始めた後も、法務部の役割は終わりません。むしろ導入後のPDCAサイクルを回すことが、電子契約を真の業務改善につなげるうえで不可欠です。
定期的に確認すべき事項として、以下が挙げられます。
また、蓄積された契約データを活用した「契約内容の分析」も、法務DXの観点から注目される取り組みです。電子化によって契約書がデータとして管理されることで、「どの取引先とどのような条件で締結しているか」「更新期限が近い契約はどれか」「自動更新条項のある契約の件数は」といった情報を横断的に把握できるようになります。この契約データを経営判断や交渉戦略に活かすことが、法務部が「コスト部門」から「価値創造部門」へ転換するための重要なステップの一つです。
電子契約の導入・定着には、法的知識だけでなく、ITリテラシー、社内調整力、運用設計力など多岐にわたるスキルが求められます。法務部の人員が限られている企業や、はじめて電子契約に取り組む企業では、外部の専門家を活用することが有効な選択肢の一つとなります。
LeONEが提供する「法務部業務アウトソーシング」サービスでは、電子契約の導入支援から運用定着まで、法務部の実務に精通した専門スタッフがサポートします。サービス選定の段階からご相談いただくことで、自社の業務規模・契約類型・社内体制に最適なアプローチを提案することが可能です。
また、電子契約導入後に法務部の業務が増加した場合や、法務担当者のスキルアップが必要な場面では、「法務人材コネクト」を通じて即戦力の法務人材をご紹介することもできます。一時的な業務増加への対応から長期的な人材採用まで、貴社の状況に合わせた支援体制をご提案します。
電子契約は、法務部が主導して全社的な変革をリードできる絶好の機会です。まずは現状の課題を整理し、小さなスコープから着実に導入を進めることをお勧めします。ご不明な点や導入に関するご相談は、LeONEまでお気軽にお問い合わせください。