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日本型「ALSP」の現在地:弁護士法の壁を越えて広がる法務DXの波

2026/01/09

ALSP

日本型「ALSP」の現在地:弁護士法の壁を越えて広がる法務DXの波

欧米を中心に法務業界の構造変革を牽引してきた「ALSP(Alternative Legal Service Provider:代替法務サービスプロバイダー)」。この波は今、日本にも確実に押し寄せている。しかし、その様相は、日本独自の文脈の中で、欧米とは少し異なる進化を遂げつつある。

 

欧米とは異なる、日本の「ALSP」受容


欧米においてALSPは、弁護士に代わって一部の法的アドバイスや代理業務まで担うケースもあるが、日本では状況が大きく異なる。弁護士法72条により、弁護士資格を持たない者が報酬を得て法律事務を行うことは厳格に禁止されているからだ。

したがって、日本におけるALSPは、「弁護士業務の代替」ではなく、あくまで「弁護士や企業の法務部門を支援する存在」として位置づけられる。具体的には、リーガルテック企業、コンサルティングファーム、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業者などが、テクノロジーや専門的なプロセス管理のノウハウを駆使し、法務周辺業務を担う形が主流だ。彼らは「法的な判断」そのものには踏み込まず、そこに至るまでのプロセスを効率化することに特化している。

 

日本企業が直面する課題とALSPの役割


では、なぜ今、日本でALSP的なサービスが求められているのか。それは、日本企業特有の法務課題と深く結びついている。

1. 遅れる法務DXと「紙・ハンコ」からの脱却

多くの日本企業では、いまだに紙の契約書や押印手続きが残っており、テレワークの阻害要因ともなった。AIを活用した契約書管理システムや電子契約サービスを提供するリーガルテック系ALSPは、こうした「アナログ法務」からの脱却を支援する強力なパートナーとなっている。

 

2. 慢性的な法務人材の不足と定型業務の圧迫

特に中堅・中小企業では、法務専任者がいない、あるいは少人数で多忙を極めているケースが多い。ALSPを活用し、秘密保持契約書(NDA)のような定型的な契約書のAIレビュー(一次チェック)や、反社チェックなどの定型業務をアウトソースすることで、限られた社内リソースをより重要な戦略的業務に振り向けることが可能になる。

 

3. グローバル化に伴うコンプライアンス対応の複雑化

海外展開を進める企業にとって、現地の法規制対応は大きな負担だ。ALSPの中には、海外の法律事務所や他のALSPとネットワークを持ち、現地の最新規制情報の収集や、多言語でのドキュメント整理をサポートするプレイヤーも存在する。

 

「日本型法務エコシステム」の構築へ


日本におけるALSPの活用は、弁護士との対立構造ではなく、「協業」によってこそ真価を発揮する。

例えば、M&Aの局面では、膨大な資料の整理や初期的な抽出をテクノロジーに強いALSPが担当し、その結果に基づく高度な法的リスク評価を法律事務所の弁護士が行うといった役割分担が進みつつある。

今後、日本でもリーガルテックの進化と共に、ALSPが担える領域は、弁護士法の範囲内でさらに拡大していくだろう。企業法務担当者には、自社の課題に合わせて、法律事務所の専門性と、ALSPのテクノロジー・プロセス管理能力を賢く組み合わせる「法務機能の最適化」の視点が求められている。それこそが、日本における新しい法務エコシステム構築の鍵となるはずだ。